太陽が水面に揺れている。

太陽が水面に揺れている。
 太陽が水面に揺れている。  君の誕生日が迫っている、気がした。記憶は朧げだった。今ではその表情さえ、花が泳いで思い出せない。  想い出がひとつ、またひとつと溶け出していくようだ。それは恐ろしいことの筈なのに、体の芯まで冷えていく感覚が不思議と心地よかった。  そういえば、今日は夏に戻ったかのように暑かった。もう金木犀の香りも枯れ草に紛れる頃なのに。 「もうさ、こんな暑い夏からは逃げ出してしまおうよ」そう言った君の口元だけを思い出している。  そうだ、こんな暑い夏なんて投げ出してしまおうか。そう言いかかった口から泡ぶくが溢れた。  太陽が水面の向こうに消えていく。
夜ヶ咲
夜ヶ咲
ファインダーの向こう側、ずっと君を探している。/140字小説とその下書き https://mobile.twitter.com/yorugasaki