無題
紫陽花は道端で泣いていた。水の粒はほろりとこぼれ、葉から葉を伝っていく。がくは次第にしおれていく最中であったが、その葉も茎も花も、生き生きと力強くそこにいた。
ふと、遠くに小さな影が見えた。じぃっと観察してみるとどうやら少しづつ近づいているようである。
「おうい。お前さんは誰だい」
紫陽花は声をかけた。その拍子にぶるりと葉が揺れ、雨粒がぽたぽたとアスファルトに染み込む。
「僕はでんでんだよう。旅するでんでんむしだよう」
微かな声であった。耳を澄まして、ようやく聞こえるほどだった。
「なんだ、でんでん虫か」
紫陽花は小さな声で呟いた。でんでん虫はあまり好きではない。奴らはのろまで、全くもって骨がないのだ。だから、それっきり両者の間には沈黙が流れた。
風が、雨粒が、さらりと梅雨をうたうなか、でんでん虫は少しづつ進んでいた。わずかに空が明るくなった頃、でんでん虫はついに紫陽花の前に来ていた。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2025/6/4 9:45
ひるがお
見つけてくれてありがとうございます。