つぎ方

 父の茶碗は、食器棚のいちばん上にあった。大きくて、縁が一か所欠けていた。僕の茶碗を買い替えたときに捨てようとしたら、まだ使えるだろ、と怒られた。  その父が死んだので、僕は背を伸ばして、茶碗を下ろした。そこに溜まった埃で咳き込んだ。その日のうちは何もする気にならなかった。  母は、僕が物心つく前に亡くなった。  父は漁師だった。遠くの海へ出て、何週間も帰らなかった。運動会の弁当は小学校の途中から自分で作った。卵焼きだけは、隣で弁当を食べていた友達のお母さんに褒められた。  父が家にいると、食卓に缶ビールが並んだ。僕の作ったものを食べ、しょっぱいだの、薄いだのと言った。笑いながら文句を言っていた。おいしくないの、と言うと笑いながら背中を叩かれた。箸の先から煮物が落ちるくらい強かった。やめろと言うと、もう一度叩いた。  僕が自分の部屋へ引っ込むと、襖の向こうで鼻をすすることがあった。翌朝には何も言わず、僕も聞かなかった。  最後に会ったのは三か月前だった。船の上で、満足そうな顔で死んだらしい。末期がんだった。
かきあげ
かきあげ
バナナです