雪の打ち上げ花火
「ああもう! 納期直前に仕様変更とかありえないんですけど!」
がんがんという鈍い音でキーボードを叩きながら、沙由が薄く光る画面に言葉をぶつけた。
時刻は十九時二十五分。本来公休と指定されている土曜日のオフィスには、私と沙由以外の姿は見られない。
今日だけでも二桁回は聞いた彼女の呪詛通り、納期直前になってクライアントからの仕様変更要望があったため、私たちは休日を返上してパソコンの画面と睨めっこを続けている。
平たく言えば休日出勤。慣れてしまった私とは違い、入社して数か月の沙由の機嫌を損ねるには十分な出来事だったようだ。
私はインスタントコーヒーで喉を潤わせ、慰めを込めて彼女の頬を突いた。
「もう何回も聞いたよ。耳に胼胝がたくさんできちゃう」
「だってぇ。あんなにたくさん会議もしたのに……」
「そうだよね。でも、仕様変更は珍しいことじゃないから」
「せっかくの休日が台無しですよぉ」
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2021/10/9 10:14
まみむめもず
基本的に読み専でございます。
たまにお話を書いているとかいないとか。
今一番欲しいものは、生きてるだけで褒めてくれる友達です。
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