ラブストーリーは順番待ち
師も走る師走というものの、この時期一番忙しいのは他でもなくこの私だ。
人々はクリスマスという言葉に浮かれ、街に溢れたイルミネーションの下の幻想にうつつを抜かした多くの男女(実際は男女に限らないのだが)は、ノリと勢いだけの“にわかカップル”を形作る。
だがそれは決して自然発生したものではない。私の存在なくして彼らはクリスマスに手すら繋げないのである。
私は疲れて霞んだ目で手に持った書類を眺める。
そこには二人のプロフィールと、恋が始まる前までの彼らの話、まぁ例えるならラブストーリーのプロローグが書かれている。
恋の始まりの決定が下ると、それが例え“にわか”だったとしても、始まりから終わりまでの一連のストーリー、いわゆる“ラブストーリー”を私は紡がなければならない。それが私の仕事だ。
ラブストーリーには書き甲斐のあるものあれば、そうでないものも当然ある。この時期に生まれるのは大抵後者だ。
そしてそのほとんどが、数年後には当事者たちの手により黒歴史として存在を消されてしまう。私が彼らのために割いた時間もすべて無駄になるのだ。
恋の始め方や展開、結末は私に委ねられるが、恋を始めるかどうか決めるのは私の仕事の範疇でない。始まりも私が決められようものなら、この世のほとんどの恋は始まりさえしないだろう。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2023/12/20 9:00
あまもよい
真夜中の通知ごめんなさい。