沈黙

沈黙
 ふたりよがりで、支離滅裂なこの感情を、ひとは愛と呼ぶのだろう。  とうに歪んだこの世界、わたしの見た幻影。  だからわたしは、何度でも伝える。  ――愛している、と。  それは、ある日突然この世界に降りてきた。歪に塗れた廃墟に、たったひとりで。彼女は虚構と深淵を司り、種々の世界を渡り歩いた。彼女はこの世界で、「律」と名乗った。  腐敗した世界。確かにこの世界はとうに腐り果てていた。嘗ての故郷を滅ぼした神への復讐を誓う最高司祭は、生涯を捧げ歪を創り出した。歪は現人神として祀り上げられ、鎖に繋がれながらも主の望みに応え続けた。歪でできた少女の心は終ぞ満たされることなく、救いを求め伸ばした手は尽く振り払われた。少女はいつしか虚ろに堕ち、ただ享楽のためだけに生きた。  そんな少女を、人々は畏怖と侮蔑を込めて「歪様」と呼んだ。  最高司祭が永遠の眠りにつくと嘗ての惨状を知る者も少なくなり、この世界に安寧が訪れたかのように思えた。  不可抗力。そう、創られた少女の運命ははじめから決まっていた。現人神が歪を餐(くら)い、邪神を呼び出す。「歪様」は邪神の器となり、「命を賭して臣民を護った」名誉の死を遂げる。そのはずだったのだ。
鴉細工
鴉細工
のんびりまったり、変な小説を書いています。 プロフィールまで見に来てくださりありがとうございます。 不定期更新ですが、楽しんで見てくださると嬉しいです。 追記:個人的なオススメ作品は『まっしろな世界』です。ぜひご覧くださいませ。 雑談用アカウントを新規作成いたしました。 こちらから↓ https://novelee.app/user/geP4NOuwA2gPMXYaPF1uZQnzyKb2