沈黙
ふたりよがりで、支離滅裂なこの感情を、ひとは愛と呼ぶのだろう。
とうに歪んだこの世界、わたしの見た幻影。
だからわたしは、何度でも伝える。
――愛している、と。
それは、ある日突然この世界に降りてきた。歪に塗れた廃墟に、たったひとりで。彼女は虚構と深淵を司り、種々の世界を渡り歩いた。彼女はこの世界で、「律」と名乗った。
腐敗した世界。確かにこの世界はとうに腐り果てていた。嘗ての故郷を滅ぼした神への復讐を誓う最高司祭は、生涯を捧げ歪を創り出した。歪は現人神として祀り上げられ、鎖に繋がれながらも主の望みに応え続けた。歪でできた少女の心は終ぞ満たされることなく、救いを求め伸ばした手は尽く振り払われた。少女はいつしか虚ろに堕ち、ただ享楽のためだけに生きた。
そんな少女を、人々は畏怖と侮蔑を込めて「歪様」と呼んだ。
最高司祭が永遠の眠りにつくと嘗ての惨状を知る者も少なくなり、この世界に安寧が訪れたかのように思えた。
不可抗力。そう、創られた少女の運命ははじめから決まっていた。現人神が歪を餐(くら)い、邪神を呼び出す。「歪様」は邪神の器となり、「命を賭して臣民を護った」名誉の死を遂げる。そのはずだったのだ。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2024/7/6 13:37
最終編集日時: 2024/8/13 9:19
鴉細工
のんびりまったり、変な小説を書いています。
プロフィールまで見に来てくださりありがとうございます。
不定期更新ですが、楽しんで見てくださると嬉しいです。
追記:個人的なオススメ作品は『まっしろな世界』です。ぜひご覧くださいませ。
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