井戸の底の透明な朝について

井戸の底の透明な朝について
 夜の帳を洗うために、井戸の底から朝を汲み上げる。清々しく透明な朝が釣瓶の中でちゃぽんちゃぽんと揺れながら、滑車の向こう側を上ってくる。盥にあけると辺りの地面にも飛び散って、朝もやが立ち昇る。  帳を盥に浸けて昨日を洗い流していく。はじめのうちの朝はすぐに濁ってしまうけど、何度も新しい朝に取り換えるうちに朝が透明なままになってくる。帳を浸けても朝が透明なままになったら、夜の帳の洗濯はお終いだ。あとは絞って干すだけである。  帳を洗ったことで昨日で汚れた朝は、世界の果ての川に流れ着く。混じった昨日を川底に棲む魚たちが食べて、消化され、思い出となって川底へと降り積もる。    そうして透明になった朝は、再び井戸の底に戻ってくるという話だ。
.sei(セイ)
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