踏切の向こう側

踏切の向こう側
 町外れの廃線跡は、夏でも空気が乾いている。線路はもう錆び切り、アスファルトに埋もれかけた枕木だけが、そこに鉄道があった証を残していた。  その踏切は、柵も遮断機も外され、赤錆びた警報機が首を傾げたまま動かない。地元では「幽霊踏切」と呼ばれ、夜中に渡ると“あっち側”から誰かが戻ってくる、と噂されていた。  美紀は、そんな話を信じていなかった。  ただ、昨日死んだ兄のスマホの位置情報が、この踏切で止まっていたから、夜になって一人で来ただけだ。  虫の声が濃くなり、川の湿った匂いが背中に貼りつく。ふと、錆びた警報機の赤いレンズが、月明かりの中で一瞬だけ点滅した気がした そんなはずはない。  だが次の瞬間、遠くから電車の走る音が聞こえた。枕木の上を車輪が刻む、あの乾いたリズム。もう十年以上、列車なんて通っていないのに。  音は近づいてくる。踏切の向こう側、暗闇の中に、兄が立っていた。
虹色のシャボン玉
虹色のシャボン玉
適当に楽しくやってます!! 作品のサムネは全てAI生成によるものです