今日もどこかで。 3

今日もどこかで。 3
煇君は私の方を見ながら、早く見せてと言わんばかりにこちらを見つめてくる。真っ黒でピカピカのハードケースの中から取り出されたギターを見て、煇君は立ち上がって 「Ovationだ!」 と言った。そうだよ。と返事をすると。触ってもいい?と目を光らせて子犬みたいな顔をするもんだから。いいよ。と応えて渡した。 「これ、結構するよね。自分で買ったの?」 「うん。バイト代全部なくなっちゃったけどね…。」 煇君は少し苦笑いしながら、私とギターを交互に見て、ギターを私に合わせるなり、似合ってるね。と言ってくれた。私も満更でもない顔をして、でしょ?と返す。 「早く早く!こっち来て一緒に弾こう!」 と昨日より声色が高く、大きな声で言ってきた。煇君はどちらかと言うと物静かなタイプだ。だけど、音楽の事になると、物凄い真剣な顔でこちらを見て、あーでね。こうでね。と説明してくれる。それほど音楽が好きなんだなと感じた。言われるがまま橋の下に座り、ギターを構えると 「とりあえず、音を鳴らしてみよう。ここは橋の下だから、音が反響して綺麗に聞こえるんだ。天然のリバーブだよ。」 と言うから、とりあえず上から順番に鳴らしてみた。すると、私が本当に鳴らしているのかと思うような音が全体を包んで、周りの壁に反響してから返ってきた。ジャラーンと鳴らしたのに、一つ一つの分裂して6つの弦の音が聞き取れた。体がゾクゾクして、ワクワクして、何回も何回も掻き鳴らした。
耀
耀
バンドマンです。シンガーソングライターを5年程していました。 今は、バンドマンと作詞家、作家をメインに活動しています。