まわりまわって。①

まわりまわって。①
ここはどこだろう。 目はたしかに開いているのに、なにも見えない。 どこかで聞いたことのある地響きや人々のざわめきが私を不安にする。 「またか───。」 最近私は同じ夢をずっと見る。 懐かしいような苦しいような心細いような気持ちで細くて生温かい道を一人で歩いている夢だ。周りの音は聞こえているはずなのに、目をあけているはずなのに、何も見えないし触れないのだ。 小さく伸びをして、サイズを間違えて買ったスウェットパンツを引き摺りながら洗面所に向かう。 「まだいいよ〜。」 欠伸のような声で私のことをベッドから呼ぶ声に少し鬱陶しさを覚える。彼とは私が25歳になった年に同棲を始めた。私たちが住むアパートは駅から徒歩10分程の閑静な住宅街の中にある。 「あと40分後には出ないとだから。春くんも早く身支度しちゃいなよ。コーヒー淹れるよ。」
せい
せい