妖花の遊興。

妖花の遊興。
 あれから一体、どれだけの月日が流れたのだろう。惑血という特別な血を持つ私は三人のヴァンパイアの食糧として捕らえられ、最悪なことに私自身も混血のヴァンパイアにさせられてしまった。彼等と私が暮らす城は特殊なベールで覆われており、人間界が昼である時間でも闇に包まれている。こちらには青白い大きな月が浮かんでいるだけだ。向こうで煌めく、あの温かくて優しい光が恋しい。触れてはいけないことは解っている。でも、懐かしくて寂しくて。少しくらいなら、と手を伸ばそうとしたその時。 「馬鹿っ! 何をしているのですか!」  伸ばしかけた腕を誰かに掴まれた。慌てて駆けつけてくれたのだろうか。緑のマントを大きく揺らす彼はそう、ヴィユノークだ。 「死にたいのですか、貴女は。」  冷たくも温かくもある彼の声が頭に響く。解っているよ、それくらい。だけど、誰のせいでこんなことになったと思っているの。言葉としてぶつけてやりたいのだが、この感情は頭をぐるぐる駆け巡るだけで形にならない。  そんな私の心を見透かしているはずなのに、彼は気づかないふりをして微笑む。 「此処は危ないですから。さぁ、帰りますよ。」  こちらとあちらの境界線は、我々ヴァンパイアにしか見えないようになっているのだが、「敢えて」そのようにしているのだろうと思う。知らずのうちに此方の世界に足を踏み入れている人間を眺めることが、彼等はどうも好きらしい。戸惑い怯える人間をわざとその状態で野放しにして、その様子を存分に楽しんでから喰らう。一度立ち入った人間は二度と帰ることはできない。私もそのうちの一人だ。殺されなかったのは私の身体に流れる血のお陰だが、この血のせいでこんなことになってしまった。ここから逃げる術はない。それ故に、彼等と生活を共にするしかないのだ。
おもち
おもち
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