文芸ピエロ

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 僕の目を完全に覚醒させたのは、三番目に焚かれたフラッシュだった。 「田村さん、花城文学大賞受賞、おめでとうございます。まずは率直な今のお気持ちをお聞かせ願えますか」  女性のレポーターが興奮気味に質問してくる。現役高校生の受賞ということもあって、心なしか周囲の熱気が高まっているように感じる。 「そうですね、まだ現実を飲み込めていない、というのが正直な気持ちです。でも、こうして皆様の前に立たせていただくと、徐々に実感と喜びが沸いてきたような気がします」  表彰式は都内の出版社のビル内にある一番大きなホールで行われている。僕は東京の郊外に住んでいるため、ホテルを取らずとも午前十時の開式には早起きをすれば間に合ってしまう。しかし、それだけのことが非常に億劫なほどに夜型人間である僕は、暫く不機嫌であることを自覚していたのだが、それでも受け答えくらいは淡々とこなせるようになっていた。  無駄に広い会場は、スーツを着た沢山の人間で埋め尽くされていて、ふと昨年の祖父の葬式を思い出してしまったのは不謹慎だろうか。僕が郵送したあの原稿は、今や僕の元を完全に離れて一般の公共物と化してしまった。目下の空気に氾濫する人々は、皆我が物顔をして僕の作品を称える。僕が朝から見てきた人の顔、気持ち悪い笑顔を湛える仮面達。  勿論、この表彰式は僕だけの為にあるものというわけでもない。 「ここまで書き続けてきて、本当に良かったです。やっと……やっと、努力が報われました」  そう涙ながらに語るのは、隣に座る、僕よりひとつ下の賞を受賞した女性。多分年齢は僕の母親と同じくらいか、それ以上だろう。化粧ではごまかしきれない小皺と、頭髪にちらつく白が老いを感じさせる。  自分の三分の一くらいしか生きていないようなガキに自分より上の賞を獲られるなんて、一体どんな気持ちなんだろうか。僕だったら、喜びの前に劣等感が押し寄せてくる。こんなところになんて絶対に来たくない。
あいう
あいう
駄文しか書きません。