貸本屋と水木しげるのこと

幼少期、秋田の田舎町、小学校の向かいに「貸本屋」があった。店舗とは言えないような荒屋(あばらや)、数人しか入れない広さで壁一面の書架に並んでいたのは黄ばんで、手垢にまみれた貸本時代の漫画群だった。当時は大手出版による月刊誌時代で、ボチボチ、週刊誌に移行し始めていた頃。 後に劇画家と呼ばれた「さいとうたかお」「佐藤まさあき」とかがあった。コレは記憶の後付けでその後長じてから思い出した物。小学校の低学年では興味が湧かなかった。 狂喜したのは吉田竜夫・梶原一騎による「チャンピオン太」(不思議なことにマガジン連載分の前ストーリーを見た記憶がある) 記憶に従い検証無しで書いているのだが、マガジンのチャンピオン太は当時連載されていた途中から読み出した物で、新連載開始の記憶がない。記憶を信じると この作品は前半は貸本、途中からマガジン連載と言うことになる。俄には信じられないが、そんなこともあったのかもしれない。 さて水木しげるである。画風、内容から言って子供向けのものでは決してない。貸本屋で見たのは「墓場(の)鬼太郎」。内容は鬼太郎の誕生噺。妖怪族(妖怪)の夫婦・が貧困と病いに犯されながら放浪の途中、一夜の宿を求めた民家で二人共死んでしまう。仕方なく主人は二人を墓地に埋める。その最中に孕んでいた母親の死体から片目の欠けた男の子が産まれる。コレが後の鬼太郎。主人は仕方なく赤ん坊を抱いて内に帰る。その後腐りかけてた父親の死体から目玉が飛び出して赤ん坊の後を追う。コレが目玉親父。 絵の「独特の雰囲気」からとても児童漫画とは思えないし、本人もそのつもりはなかった筈。 確認してないけど、今も読める筈。 その後少年マガジンに薄まった鬼太郎物が連載され、人気を得てアニメにもなった。「墓場」もいつの間にか「ゲゲゲ」になって現在も人気コンテンツの一角を占める。 同じ雰囲気で「悪魔くん」も貸本屋(つまり大手出版社以前)にあり、大天才のニヒリスト少年が悪魔を呼び出すまでって内容。コレも毒が抜けてマガジン連載、更に毒が抜けてテレビで実写放映された。 水木しげるの絵は全く独創的で真似手の無いのは当然として、出発点のテイストも凄まじい。ネズミ男のキャラクターに本来の持ち味の痕跡がある。それにしても「目玉親父」はアイディアとしても秀逸すぎる。
ヨーイチ