男の右肩と顔の間を風が通り抜けた。夏にしてはずいぶんと乾いた風だった。それは遠く離れた異国の地から吹いてきたような風だった。悲しみと孤独をのせ、とても長い道のりをたった一人で流れてきた風だった。  誰もが内包する孤独をむき出しにしたような、ひどく寂しいにおい。  男は風に同情し、その寂しさで質量をもった風を、少しなでた。風は男の五本の指の間を抜け、望む望まないにかかわらず、まるで義務のように、また寂しい旅に出かけた。男は確かに感じた風の質量を思い出し、自身と一体化するように風の質量を拳に優しくしまった。  男は、自分と一体化した風の悲しみと孤独が消えるまで、しばらく夏の夜道を歩いた。静かに歩を止めると、男が歩く道にもう風は吹かなくなった。それは、男にもとに二度とは戻ってこない人を思い起こさせた。男は立ち止まり、その人を思い出した。  夏のせっかちな朝はまるでやってこなかった。
洞田浮遊
洞田浮遊
小説家になりたいです。