箱庭の愛

 人のことはなかなか分からないというが、実の家族のことをここまで知らないとは思わなかった。いや、むしろ知っていたからこそ衝撃を受けたともいえる。とにかく、一刻も早くこの事態をなんとかしなければならない。  兄貴と二人暮らしをしている。しかし、俺はバイトで昼間はおらず、兄貴は夜勤のためほとんど顔を合わすことはない。だからその日も家に帰って一人だと考えていた。 「おお、びっくりした。今日仕事ないのか」  鍵がかかっていなかったことを、玄関に立ち尽くす兄貴を見て思い出した。兄貴はこちらに背中を向けて一言も喋らない。  再び兄貴に声をかけようとした時、兄貴の手から血が流れていることに気がついた。指先から床へ一滴ずつ垂れていた。 「おい、大丈夫か。どっか怪我でもしたのか」  慌てて兄貴の元へ寄って、そこで兄貴が無言の理由がわかった。  豚がいた。蔑称としての豚じゃない。あのピンク色の、家畜として飼われている、美味しい。とにかく生き物の豚が兄貴の目の前に血だらけで倒れていた。  誰がやったのかなんて聞かなかった。聞くまでもなく、兄貴の腕に付着した血と異様なまでに無言の兄貴が物語っていた。 「これ、なんで」
K
色々書いています。