第1章-はじまり-

第1章-はじまり-
もう何回同じ軽快な音楽を聞き続けているんだろう。冷えきったベンチから視界に広がるパステルの玩具のお城は、最初こそ胸が踊ったが今となっては目が痛い。太陽が沈み照明がついてからはもっとだ。 こんなはずじゃなかった。 ようやく付き合うことが出来た人生初彼女と夢の国に行ける。そう思って楽しみにしていた割には寒すぎるし、並ぶし、現にこうして今も目的なく寒空の下、左腕に寄り添いしがみつく彼女の相手をしている。 俺も幸せのはずだ。そう思い込みたくとも、目の前をとめどなく歩き去ってゆくカップルのあの幸せそうな姿を見てしまっては、なんとも言えない感情に苛まれた。 「寒いよ」 「私がいれば暖かいはずでしょ」 腕を引くと彼女は再度力を込めて抱きしめてきて、それからはもう逃げ出すことが困難になった。彼女は俺の肩にもたれかかる。 「帰りたくない」
りりこ
りりこ