IN JAPAN 5
根津は特に困り事もなく、仕事を進めていた。取り敢えず、信頼出来て使えそうな組織を見つけると印をつけた。
黑麒麟《ダークウェブ》という脈々と広がるサイトは特に使える。何故なら求人募集なんかも大規模に行い、而も報酬として貰える金額は一般的な企業と比べて三倍近くはあるのだ。黑麒麟本社はラスベガスかもしれないが、元々は中華系のサイトであった故に華人や日本系が多く働いている。また、黑麒麟社の拠点は米国、露西亜、西班牙、中国などの地域だ。それらの地域は日本との関わりも濃い。
彼は届いた卵を手に取る。殻は白く、ざらりとして硬い。箱には経由した道を長々と書いており、その下には一言綴られていた。
Why do the Japanese drive on the left side of the road?
Because it’s the right side.
卵を砕くことも、焼くこともせずに冷蔵室に詰めた。それから何食わぬ顔をしてパソコンを開くと、最新のニュースが載っている。【GAKUTO TENSA Believed to Have Fled to Japa】ふむ、と彼は思った。そうして疑問が過ぎる。博戸を生かす理由が何処にあるのだろう? 指名手配されている猫が日本に居るのならば始末した方が早いのではないか。然し、その案件を此方が承るのは面倒な話だ。むしろ被害を被る可能性がある。ならば関わらない方が良かろう。
一方でBTとサムエルは中華料理店で回鍋肉を食べていた。中国風の回鍋肉は皮付きの豚肉の薄切りに蒜苗を加えて豆板醤で味付けをした、舌の痛むものだ。味覚の鈍いBTはむさむさと咀嚼していた。英国の素朴な料理で育ってきたサムエルにとって、中華料理というものは食べる毒である。彼は敢えて手をつけずに、作業に没頭していた。油の調合である。
「サムヱル、キミ、変ナ顔シテドウシタ? 血ヲ抜カレタ鰻ミタヰナ顔デ面白ヰ」BTが顎に手を添えて、がこんと首の骨を折る。そうすると頭が外れたように傾き、ひっくり返った。サムエルは一瞬心臓が震えたが、後にふうと息を吐いて「辛いものが嫌いでしてな」と冷然と答えた。するとつまらないそうにBTは頭を元の位置に繋ぎ合わせて、爛れた眼を向ける。皮膚の破片が黄緑に発光してはらはら落ちていった。
「ソレハ何ダ」
彼の手には赤い艶のある、唇のようなものがある。彼は笑いもせずに顔を向けた。義眼を外しているからか、右眼が垂れている。
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カテゴリー: SF
投稿日時: 2026/5/22 15:11
最終編集日時: 2026/5/28 11:58
愛染明王
科学部の逸材