重症筋無力症という病について
指定難病十一、その響きはなんだかエヴァの区画を思い出した。
ーー階段から落ちた。
あれは桜も咲き始めた頃合いで、研究所に向かう途中だった。かたやに事務所の今期からの実装機器の相談兼ねて、バスに乗った。相変わらず、車を買う金なんてもんは、淡いビールの泡に変わるもの。ちっとも、自家用車なんて、地方だろうが都会だろうが気にしやしなかった。
ちょうど、研究所の無機質な薄暗いグレーの階段。そいつの下り坂、ゴムの縁が足先を掠めた。急に、足がもつれた。かくんって、酔った。おかしいな、昨日は飲んじゃいない。
そしたら、隣りにいたはずの黒縁メガネの定年退職前の親父さんが、あっ、って言った声が聞こえた。おれは、がたがた落ちた。びっくりした、でも、左腕を親父さんが片手にぶら下げて。おれは腰を打つ程度で済んだ。
そんなとき、親父さんはおれの顔を見て、はっとしていた。なんでも、おれの片目の瞼が、殴られたみたいに落ちていたらしい。ぎょっとして、脳梗塞だと言った。でも、おれはそんな歳じゃない。だから、呂律も脳も痛くなくて、断った。でも、親父さんは急いでおれをプリウスに引きずっていった。
4
閲覧数: 311
文字数: 4052
カテゴリー: 日記・エッセー
投稿日時: 2025/11/7 12:17
西崎 静
コツコツ書いていきたいと思っております。よろしくお願いします!成済