高尾へ

高尾へ
 階段を半分ほど駆け降りた時、下品なおくびに似た音が聴こえた。 それから、扉の閉まる気配。 ホームに佇む私の横を、銀色の電車がゆっくりと速度をあげ、通り過ぎていった。 間に合わなかった。 高尾山口行の電車は、あと十五分待たなければ来ない。 たかだか十五分。でも、ゆったりと待ち構えるほどの心の余裕がなかった。 高尾山には、一度だけ登ったことがある。恋人が一緒だった。
斜月
斜月
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