第7回N1 白から
叔母さんが、亡くなった。
叔母は元・京都祇園の芸妓さんで、三年前結婚で引退し、地元である神奈川に帰ってきた。
叔母と僕は、すごく仲が良く、僕は叔母を「菊姐さん」と呼んでいた。母の姉で、名前が「菊」だったのもあるし、僕達がまるで、年は離れているが本当の姉弟のような仲の良さだったのもある。
休みの時は、家族でよく、母方の祖父母と菊姐さんがいる京都に行った。
まぁ、菊姐さんは芸妓さんだったので、休みが毎週末ある、とかいう訳ではなかったから、休み中京都に行っても、一、二日程しか会えなかったが、会った時は、二人で思い切り遊んだ。公園で鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり。トランプや百人一首なんかもした。妹が生まれて、歩けるようになると、妹も一緒に三人で遊ぶこともあった。
僕は菊姐さんが大好きだった。
菊姐さんは元からずいぶん美人な人だったが、たまに見る、芸妓姿の菊姐さんは更に綺麗だった。
白粉と紅で彩られた顔と首筋の上に、漆黒の、島田髷に結ったかつらをつけて、鼈甲の櫛や紅い玉かんざしをさし、美しい絵柄が施された綺麗な色の着物に、金糸銀糸を織り込んだ立派な帯を締め、赤い襦袢をのぞかして颯爽と、しかし上品に歩く様はかっこよくて、憧れた。
小学二年までは、男はなれないということを知らずに、将来の夢は芸妓さんだ、と言っていたぐらいだ。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2025/8/13 21:16
Tentomushi
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