быт

быт
 火の粉の舞う晩年、父は言った。 「弱者を助けなさい。また、周りの動物達と支え合って、お互いの弱点を埋める。煉瓦のように生きなさい」と。幼い私には彼の教えがわからなかったが、一生懸命に頷いて「はい」と答えた。だが、父はその年に死んだ。母も同年に死んでしまった。兄の話によると、母は丸裸にされ、棒で粉々に叩かれたらしい。父は首をマチェットで切られて、体は燃やされたそうだ。私はその景色を全く覚えていない。ただ、話を聞いてから兄に縋りついて大泣きした。また「何故、母と父が死ななければならないのか」と怒鳴った。思い返してみると、昔の私は、彼を両親が死んでも悲しまない無慈悲な男だと思っていたが、実は兄も泣いていたようだ。そして私を咎めることなく背を撫でてくれた。彼が居たから、今の私が居る。そう確信した十年後の秋。私は海の上に居た。十歳の私は艦艇の爆弾扱いで、もし戦いになったら犠牲になるという役目があった。だから司令官や海曹達は見向きもしてくれないし、訓練が辛くて泣いても鞭打ちされるだけだった。腕立て伏せを繰り返しながら「今日も海曹殿は話してくださらないんだろうな」と悩んでいた時、珍しく海曹の海豹が来て話しかけてきた。吃驚して、嬉しさも同時に攻め込んでくる中敬礼する。海豹は意地悪そうに笑っていた。 「お前、爆弾抱えて敵の軍艦まで泳いで来い」  背後からふざけた笑い声が聞こえてくる。私も、流石にこんな無闇なことを命ずるわけがないと思って当惑していた。返事の仕方に逡巡している間に、海豹は胸を叩いて「返事は!」と叱りつけてくる。私は反射的に「イエッサ」と答えた。それから私はやや巨大な手榴弾のようなものを抱えさせられて、海に突き落とされた。秋の寒空と、もっと冷え切った青い海。私の体温は坂道のように下がっていった。すぐにでも相手の方へ泳がなければならない。だが、攻撃されたら即死。そこで私は爆弾を両手で守り、潜水した。海砂や泥を足で蹴って姿を隠しながらほぼ真下の海底まで行くと、岩礁や海藻の集中したところがあるのでそこに隠れる。また砂を被り、しっかりと潜水艦、艦艇の配置を覚えた。そして二時間息を止めて待つだけだ。不安になった海兵が複数頭で穿鑿して来るだろう。そう思って呑気にしていると、味方の艦艇が困ったように少し動いた。私が死んでいると思っているのだろうか。それでも待つ。予想通り、敵の軍艦から海兵が落ちてきた。 「おーい、……おかしいな。全く姿が見えない」 「死んだんじゃないか?」  そんな会話が聞こえて来る。私は彼らに狙いを定めると、背後に近付き頸動脈に噛み付いた。海兵が叫び声を上げようとするので口を押さえる。一頭で二頭を構うのは難しい。だから片方の頭を強く暗礁に叩きつけて気を失わせた。私から押さえつけられている海兵は抵抗を試みたが、大量出血で意識が朦朧としているらしかった。 「指導者が居る場所と兵の数は?」  そう聞いても答える様子がない。私は首の筋を噛みちぎった。海兵は全身を痙攣させて苦しんでいる。海兵は「ヘスペリデスッ、兵は三万頭ッ」と叫んで助けを求めてきた。私は手持ちの水中銃で彼を撃ち殺すと、艦艇の近くまで詰め寄って手榴弾を引き投げた。バンと音が響くと、艦艇から破片が飛び散り傾いた。無論、私も被害を受けて全身が血塗れである。ただ痛い、秋の寒さも加わり体が麻痺している。やっと肺から取り込んだ酸素が全身を廻って、頭が働いてきた。私は体を捻るようにして味方の艦艇に攀じ登ると、その場で仰向けになって寝た。激痛と痺れの間に見た走馬灯が、冒頭で出てきた景色であった。両親に守られ、兄に助けてもらった命。此を使って、私は動物を殺している。吐き気を催すほど汚い方法で国家を守っている……。眼を覚ますと、そこは病室のベッドだった。腕には管が刺さっていて、点滴袋から液体を通されている。また全身は包帯だらけだった。起き上がろうと腰を動かしてみると、傷が開いたのか激痛が走る。私は顔を歪めて周りを見た。横にはパイプ椅子に座って、オーギュスト・ロダンの彫った『考える人』のような格好をした兄が居た。蝙蝠のような翼は畳まれていて、顎下に拳を添えて寝ている。洋紅艶の尻尾は床に垂れていた。私は彼の太い角を撫でる。  ……──兄ちゃんとは五年ぶりだ。こんなに逞しくなったのか……。
愛染明王
愛染明王
དབྱར་རྩྭ་དགུན་འབུが好きっす