第九話 教習の強襲

俺はソワソワしていた。今日、この学校で幽霊の路上教習が行われるからだ。具体的なことは不明だが、ホロ子さんがこの場にやってきて俺以外の誰かを驚かせるのだとか。一応俺も生身の人間として付き添いという立場を与えられてはいるが、余程のことがない限り出番はないだろう。それにしても、ホロ子さんが上手くできるか心配である。 「おい……おい神谷! 聞いてンのか!?」 突然自分の名前を呼ばれて心臓が飛び上がる。前を向くと鬼のような顔をした金澤先生がこちらを見ていた。 「なにボーッとしてんだ馬鹿野郎。お前を当てたんだ。早く答えろ!」 授業中に考え事をしていた俺も悪いのだが、やはり他人を威圧するような声で言われると反抗したくもなる。それにしても、こんな理性の欠片も無さそうな男でも高校の数学教師になれるものなのだろうか。 どの問題について指名されたのかわからず、少しテンパっていると、隣に座る鈴木さんが開いた教科書の一部分をトントンと指差していた。助かった。俺は授業の復習はきっちりこなすタイプなので、その場ですぐに考え正解を答えることができた。 そんな様子が気に食わなかったのか、金澤は舌打ちをしながら言う。 「チッ。お前みたいに勉強だけできて他に能の無い奴が一番しょーもないんだよな」 流石にそんなことを言われる筋合いは無い。カチンと来て、俺は全く言おうとしていなかったことを口走ってしまう。 「先生、熱中症ってどう思います?」
吉口一人
吉口一人