飯盛女

 ここの峠を越えるにはかなり時間がかかるというので、まだ早い時間だが宿に泊まることにした。早めに宿についてもやることはないもので、何をするでもなく都での飯に思いを馳せてみたが、どうにも盛り上がらない。  故郷の田舎から都までの長旅を始めたのは一週間も前のことである。最初のうちは見慣れぬ土地と旅の興奮、都への憧れで心を躍らせたものであるが、次第に興が冷めてきた。決して都への憧れがなくなったわけではない。旅の興奮は少し慣れたかもしれないが、見慣れぬ土地はどこへ行っても味わえる。しかし、胸の奥のどこかに、旅のさまざまな興奮を冷ましてしまう、深く濃い黒色の何かがある気がしてならないのである。  そんな憂鬱なことを考えていると、宿で働いている女がやってきた。 「旅人さん、ご飯はいかがしますか」  女将にしては若すぎる、ちょうど良い年頃の女が正座したまま襖を開けた。 「いや、どうにも腹が減っていないんだ。宿は泊めてもらえるだけで十分」  そういって断った。 「では、こっちの方はどうです」  そういうと若い女は立ち上がり、艶かしい足を披露した。ほとんど下半身の全てが見えている状態といっても過言ではなかった。 「すまないが、どうにもそういう気分になれないんだ。なんだか、嫌な感じがあってね」
K
色々書いています。