I needed you
土砂降りの雨が窓を叩く。夜はすっかり暗く溶け切った。その闇はより一層のこと暗く、深い。互いに身じろぐ度に擦れるシーツの音と、それに伴って舞う清潔な石鹸の香り。それからCHANELのN°5。
暗闇に仄白く浮かぶ彼女の背中の隆起は陶器のよう。散らばる髪は絹の川。創りものみたいな美しさ。しかれど、何かが足りない。そういう気持ちにさせた。
喩えるならば、サモトラケのニケ。ミロのヴィーナス。彼女の容貌は、玲瓏な声は、まるで美術品のように完成されている。こんなにも完璧で美しく、ただ一つの作品のような見て呉れで、なのに何かが欠けている。そう思わざるを得ない不確定要素が、どうしようもなく私の心をざわめかせている。
「なにが不安?」
「……なんで?」
「そういう表情してる」
「わかるの? 背中向けてるのに」
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2025/2/10 10:14
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
こより
ᴴᴱᴸᴸᴼ¨̮