I needed you

I needed you
 土砂降りの雨が窓を叩く。夜はすっかり暗く溶け切った。その闇はより一層のこと暗く、深い。互いに身じろぐ度に擦れるシーツの音と、それに伴って舞う清潔な石鹸の香り。それからCHANELのN°5。  暗闇に仄白く浮かぶ彼女の背中の隆起は陶器のよう。散らばる髪は絹の川。創りものみたいな美しさ。しかれど、何かが足りない。そういう気持ちにさせた。   喩えるならば、サモトラケのニケ。ミロのヴィーナス。彼女の容貌は、玲瓏な声は、まるで美術品のように完成されている。こんなにも完璧で美しく、ただ一つの作品のような見て呉れで、なのに何かが欠けている。そう思わざるを得ない不確定要素が、どうしようもなく私の心をざわめかせている。 「なにが不安?」 「……なんで?」 「そういう表情してる」 「わかるの? 背中向けてるのに」
こより
こより
ᴴᴱᴸᴸᴼ¨̮