月を抱く

月を抱く
この世でいちばん美しく切ない姿は月だと思う。  アイリッシュウィスキーをロックで片手に飲み、タンクトップにパンツいっちょうの姿で窓際に立ちながら、仲田一樹は思う。 後ろから卓也が「何をぼんやり考えてるん?」ときいた。  「いろんな事」と俺は答えた。  卓也はおそらく何も深い意味はないだろうという風に「ふーん」とだけ呟き、いつもの定位置のソファーに座り、テレビに目を向けた。
前田 芍葉