泥棒の知恵

 物音に気づいて私が目を覚ますと、ベッドの隣りには上下黒い服の男性らしき人が立っていた。どうやら向こうはこちらが起きていることに気がついていないらしい。その男はゆっくりとクローゼットの方に近づき扉を開ける。私は薄目で彼を追う。もし私が起きていることに気がつくと何をされるか分からない。ナイフを持っていればそのまま襲いかかって来るかもしれない。  実は泥棒に入られるのはこれが二回目だった。一回目の時にはクローゼットの奥に隠していた高価な時計や様々なアプリのアカウント情報を書いた紙を盗られた。すぐに対応したおかげでアカウントが荒らされることもなく、泥棒は警察に捕まり時計も戻ってきた。それからというもの、私は貴重品と一緒にベッドで寝ている。  泥棒は必死にクローゼットの中を探している。そこには安い服と安いアクセサリーと海外で買ったロレックス(もちろん偽物)しかない。泥棒はそのロレックスを手に取る。しかしそれを持って逃げようとはせず元あったところへ戻している。偽物だとバレたのか。それともお金ではない何か別の目的があるのか……  その男は結局何も盗らずに窓から逃げていった。しばらく経ってから私は漁られていたクローゼットを確認した。だが様子がおかしい。普通は物が散乱しているはずだがこれは全く荒らされた痕跡がない。泥棒が入ったことに気づかせにくくするためだろうか……  布団の中の貴重品袋を一応確認するが、もちろん何も盗られていない。当たり前だけどそれだけでホッとした。しかし窓の鍵を閉めて寝ていたので泥棒に鍵を壊されているかもしれない。修理代がかかるよりはもういっそうのこと、鍵を壊さず窓を開ける方法を見つけてくれよとも思う。  そう考えながら私は窓の方へ振り向く。するとカーテンの隙間から何者かの目がこちらをのぞいていた。その人は窓を開けて部屋へ入って来る。さっきの泥棒だ。私は恐怖で悲鳴を上げることもできずその場に突っ立っていた。しかしなぜか頭だけは回る。何も盗らずに一度外に出ていった理由がパッと頭に思い浮かんだ。  私のように一人暮らしをしている人はほとんどが泥棒対策をしている。つまり泥棒は部屋に侵入したとしても金目の物を見つけられない可能性が高い。そのため、一度侵入しては探すそぶりを見せてから部屋を出て待機する。そして金目の物が盗られていないか確認する私たちのことをこっそりと見て、そのありかを突き止めるのだ。  その男はベッドの上の貴重品袋の方へ目をやる。なんて悪知恵の働くやつなんだ。その才能を何か別のことに役立ててはどうなのか。  私の方へ視線を戻した泥棒の手にはナイフ。こちらへゆっくりと近づきその手を振り上げる。脅しもせず私を殺すようだ。確かに一度出て戻って来るというこの手口を使う人は他にいないだろう。だからこそ今後もこの手口を使うためには世間にバレないようにしなければならない。そして今生きている中では唯一の目撃者である私を殺すというのか。最後まで計算され尽くしている。ほんとうに悪いやつだ。こういうやつは地獄で……  私は一瞬の痛みを感じた後、ほぼ感覚もないまま床に横たわる。ぼやけてほとんど何も見えないが、黒い人影が私を見下ろしている。そしてもう一度鋭い反射光が私へと近づいて来る。
エーテル (短編・SS)
エーテル (短編・SS)
SF・別世界などちょっと独特な感じのショートショートをメインで書きます。 (全然別ジャンルも書くかも) いいね・コメント・フォロー気軽にしてください