とある日常
コンタクトを人生で初めてつけた。つけたときは目に違和感しかなかった。建物の外に出た。そこにはいつも見ている、いつも通りの景色が広がっているはずだった、しかし、そこにあったのは見たことが無い未知の世界が広がっていた。
空はもう真っ暗で建物や文字、街灯がライトアップされている。いつもは光ばっかで確かに夜なのに明るい街を鬱陶しいと思っていた。でもコンタクトをつけた今は違う。一つ一つの光が輝いて、まるで星を見ているかのような気持ちになった。コンタクトをつける前はコンタクトに対して、朝めんどくさいとかお金がかかるとかマイナスなイメージしか無かった。それは今でも変わらない。でも、こんなに美しい、いつも鬱陶しいと思っていた街が、歩くだけで星を見ているかのような気持ちになれるのだったら、めんどくさくてもなんでもいいと思ってしまった。
学校にももちろんつけて行った。無事、朝コンタクトをつけて登校した。夜と違う朝も美しかった。太陽の光をこんなに感じたことはないだろう。コンタクトによって視力がよくなっただけなのに太陽はこんなにも輝いていたんだと実感させられる。学校では友達や周りの人もみんな僕がコンタクトをつけてるなんて気づかない。なんだか僕だけが別世界を見ているかのようで嬉しくなった。「なんだか、嬉しそうだね。」そういう君の顔はいつもよりはっきり見えた。確かにいつも通りの声だった。でも顔が少し曇っているように見えた。だから僕は聞いてみた。「何かあった?」僕の声を聞いて君は驚くように目を見開いた。「何も無いよ」君は優しい声で言った。でもこれが嘘なことはすぐにわかった、だって君の顔が曇ったままだったから。「いつもは気づかないくせに」君は泣きだす。
ああ、ここで実感する、コンタクトは美しいものばかり映してくれるものじゃないと、なんでもはっきりと映すものだ。いつもは気づかずにいた君の思い。人には言えないような感情。そして世界の醜さ。僕は目の前の美しいものだけ見えてればいいと思っていた。だけどその考えは甘すぎたらしい。
見えることの楽しさを知った。でも、それと同時に君の心の中も少し見えるようになった。泣いている君の頭を撫でながらそう思った。
コンタクトをつけてみえるものは何も景色だけでは無い。人の感情も案外簡単に読み取れてしまう。君のその赤く染まった耳もはっきり見える。耳が赤くなるということは照れているのかな。ふと愛おしくなって抱きしめたくなった。その気持ちが思わず顔に出てしまう。見なくてもわかる。今僕はだらしない顔になっている。君の目が悪いことを願うと同時に思った。君はコンタクトをしていないはずなのになぜ、僕が嬉しそうにしているのに気が付いたんだろう。
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2022/12/9 18:28
結城 渚
ゆうき なぎさ
小説家志望、学生です。
小学館ライトノベル大賞受賞する。
そしてアニメ映画化。
夢は日本中を巡りながら小説を書くこと。
小説は空想ではなく経験だ。