第10回N1 昼の空にある月
「『あ』はそなたのものにあらず」
幼き頃に、父から言われた言葉だ。父は縁側で優雅に扇子を顎に当てながら、遠くを見て呆けていた。
当時の私には、その真意が分からなかった。だって、『あ』は私を見てくれていたのだから。一緒に笑い、一緒に泣き、一緒に転んでは立ち上がる。そんな幼少期を過ごしていた。
ところが、事態は変わっていった。私が十四の時、『あ』の婚姻が決まったのだ。相手は私ではない。私の父よりも位の高い、月城の姫君だ。
最近、懇意となった姫君――くれなと貝合わせをしていても、身が入らない。
「はなの、どうなさいました?」
「いえ、お気になさらず」
笑みを浮かべられない私の異変に気づいたのだろう。くれなは首を傾げる。
「ただ、焦がれた殿方が遠くに行ってしまいそうなのです」
私が視線を下げると、くれなは遠くを見る。まるで、あの時の父のように。
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文字数: 3864
カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2026/8/1 12:04
最終編集日時: 2026/8/11 12:39
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
七宮叶歌
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