半端者の吐露

「どうにも私の手で描けるのは陳腐な世界ばかりのようでほとほと困りました。何かを得なければ始まらない。そう悟って、気になっている小説を買おうとしたんです」  男は肩を落とした。 「そうしたら、あらすじを見て手が止まりました。魅力的なタイトルなのに。表紙なのに。ストーリーなのに。買う意志が一転して買わぬ買わぬの一点張りになりました。そして何故か、チリチリと胸の奥が焦げ付いたんです。それで初めて、ああやっぱり私は私の作品を書き上げたいのだと気付くのですが、何分今は食指も動きそうにありません。塵積もる感情の行き場もなく仕方なしにSNSを覗いても、また胸が焦げ付きました。嫉妬でしょう。嫉妬でしょうか」  男はまた肩を落とす。重たいため息が鬱屈とした心を紛らわすように口から溢(こぼ)れ出た。 「書く意志がおのずからではなく、何かに起因して湧いてくるとなると、私は本当に小説家を目指しているワケでは無いようなのです。しかし、書きたいと思うのも事実なようなのです」
ろくを
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