妖花の誘い。(いざない)

妖花の誘い。(いざない)
 とある街にひっそりと佇む小さな花屋がある。しかし、これがまた奇妙な花屋なのだ。店には様々な花があるにも関わらず、出てくる客は皆揃って、見事な白い薔薇の花束を抱えているのだ。全ての客がそう要望したとは考えにくい。とすると何故? 意味がわからない。要望通りの花束を作ってもらえず、不満げな表情を浮かべる客を目にすることも少なくない。それなのに店の評判は最高なのである。しかも、どの口コミも「美しい赤い薔薇をありがとうございます」という内容なのだ。これは一体どういうことなのだろう。何とも不思議な店がこの街にあるのだと、巷では密かに噂になっていた。噂を聞きつけ好奇心から訪ねる者、何も知らず単純に花を求めて訪ねる者など、様々な客が今日も店を出入りしていた。 「彼女に贈る花束をつくっていただきたいのですが」  一人の男が声を掛ける。 「ご自宅用ですか? それともプレゼント用ですか?」 「え? ……いやぁ、実はですね。今夜プロポーズしようと思っているんですよ」  恋人に贈ると言っているのだからプレゼント用に決まっているだろうに。的外れのような、掴みどころがないような店主は、非常に美しい顔立ちの中性的な男だった。ゆるく結われた長い髪はまるで絹糸のように綺麗である。彼は当然のように白い薔薇を花束に仕上げていく。本数を数えるやけに甘ったるい彼の声は、十七で止まった。 「お待たせ致しました」  白い薔薇を目にした男はむっと顔をしかめた。 「いやいや、違うでしょ。プロポーズといえば赤い薔薇の花束に決まってるじゃないですか」
おもち
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