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ごめん、自分で立てるから、とミレイが小さく呻き声を上げながら、ユウヤの腕を退けてゆっくり立ち上がる。どうしたの?その傷とユウヤが聞くと、何でもない、大丈夫とミレイは苦しそうな顔で答える。
「またケンイチに殴られたんでしょ?この前僕と会ったから」
僕のせいで殴られたんでしょ、とユウヤは言う。違う、とミレイは首を振る。いつもの事よ。
「だって、傷跡増えてるじゃん、前よりもさ」
ユウヤはふと彼女のこちらを見上げる顔を眺めた。今更ながら、彼女の顔には新しい傷痣が増えてることに気付く。彼女の目元のアイラインや頬のチークの下に、血の滲みのような青黒い痣が微かに覗き、顔のメイクはそれを隠すかのように上塗りされていた。ユウヤは悲声を上げそうになる。それから彼女の首元の頸や鎖骨の窪みと、雨後の筍のように次々と新たな傷が見つけられた。
「ごめん、僕のせいで、あの日僕が家に誘ったりしていなければ…」
「だからユウヤのせいじゃないって、私が勝手にユウヤん家に行ったんだから」
「でも、酷い傷だよ、…ごめん、本当にっ」
違うって言ってるでしょ!ミレイのその怒声にユウヤは思わず身体が強張り、足取りを崩した。周囲を歩く人々の視線が一瞬、二人の方へと向けられる。ざわざわと彼らの声は積乗して音量を増していくような感じがした。ユウヤは彼らの目線を気にして、ミレイの肩を持ち、少し離れた人影の減った建物裏の物陰へと移動した。触らないで、とミレイがユウヤの手を振り払う。彼女の顔や首筋には冷たい汗が浮き出ていた。
「ケンイチがやったんだろ?本当のこと言ってよ」
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カテゴリー: 恋愛・青春
投稿日時: 2025/9/19 16:27
最終編集日時: 2025/9/22 2:41
アベノケイスケ
小説はジャンル問わず好きです。趣味は雑多系の猫好きリリッカー(=・ω・`)