笑いどく

笑いどく
 朝には紅顔となりて夕には白骨となれる身なり──  女が消えたので、しめしめと思った。  大方毎度毎度と金をせがまれるのに辟易して、とんずらこいたのだろうというのが倉木の推測であった。こういうことは幾度とあった。倉木はその度に、それ次だとばかりに別の女の室へと転がり込んだ。行方をくらました女を聞屋みたく嗅ぎ回るような下世話なことを、彼はしなかった。その代わり疎ら通いだった目掛けの元へ、本腰を入れるようになるのが彼の常であった。  二号に限らず三号四号と当ての備蓄はあった。どれも教養はさておき倉木の目に適ったイイ女だったので、彼が雨露も凌げぬと途方に暮れることはなかった。  この女もなかなか金を渋ることが増えてきて、あまり倉木の助けにもならず無心の度に煩わしいので、向こうからいなくなるのでは好都合であった。 「なんぼいるの?」  歯並びの悪い、三十路ほどの遊女の問いに、倉木は四つ指を立て「四でいいぞ」とはにかんで笑ってみせた。これは醜女ではあるが気立ての良いできる女なので、倉木は平常より多めに催促しようと考えていたが、つい先日かの女に逃げられたばかりなのにこれにまで出奔されたら困るからと無理に堪え、割合柔らかな値で機嫌を取ろうとしてみせたのであった。  むろん返済の当てなどまるでなかった。だがいそいそと通い詰めのキャバレエに向かう道方で倉木はすでに、もう少し無心しておけば良かった、惜しいことをしたなという後悔の念に蝕まれていた。
Zazao