一生物の古時計

 夕刻の工場地帯の一角に古い時計屋があった、そこにひとりの何か落ち着きの無い、工員の青年が訪れる。 「頑丈な一生物の時計が欲しいですが」 時計屋の店主はルーペで時計内部を見る様にその青年を見定め。 「あるよ、お金はいらないよ」 と奥から持ってきた時計は小さく古く今にも止まりそうな時計だった。 「こ、これは?!」 「町中で倒れていた、吟遊詩人が持っていた時計だ、皆で埋葬料の代わりに、詩集と琴は楽器屋、化粧品と服は服屋、帽子は帽子屋、靴は靴屋、宝石は役人、私は時計屋だからこの懐中時計とオマケで手鏡を拝借した」 当然に青年は不可解に感じ、声を荒げる。 「あのー! 一生物の時計が欲しいんですが!」 「だから、これで充分」
仙 岳美
仙 岳美
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