信楽焼きのぽんぽこりん
「あ、そうだ」俺の隣を歩いていた親友が急に声を上げるので俺は親友を睨む。「んだよ、急に」「あそこ見てみ?」そう言って親友は交差点の向かいの蕎麦屋に飾ってある信楽焼のタヌキの置物を指さす。「あれが何さ?」「いやな、俺の先祖の話を思い出してさ……」「先祖??」親友はそれを聞くと、顎に手を当てて話し始めた。大昔、そいつが言うには江戸時代の初期ごろ。蕎麦屋を営んでいた親友のご先祖様。その人がある日山で山菜取りをしていたらなんかの動物の激しい鳴き声が聞こえたそうだ。それで声の方向に行ってみるとそこにはとらばさみにかかったタヌキがいたそうだ。「おうおう、お前さん、可哀そうにな…誰の罠か知らねぇが俺の目の黒い内はこんなこと許せねぇのさ!」そう言うとご先祖様は罠を外してやってタヌキの足に手拭いを巻いて逃がしてやったんだとさ。そしたら後日、蕎麦屋に謎の小太りの男が来たんだそうだ。その男は愛嬌のあるかわいい顔でにっこりと笑い店主であるご先祖様にこう言ったそうだ。「旦那様!!あっしは昨日助けていただいたタヌキです!」って言ったそうでそれを聞いたご先祖様は「何言ってんだ、おめぇさん!確かに俺は昨日タヌキを助けたが、なんでそれをおめぇさんが知ってんだ?さては俺を騙そうって魂胆だな!?」とその男に殴りかかりそうになった。でもその男は違う違うと泣き顔で言いだした。男はそれから、着物の裏側から昨日、ご先祖様がタヌキに巻いた手拭いを取り出した。ご先祖様はそれを見てハッとして、男の手からその手拭いをかすめて、まじまじと手拭いを観察しだしたそうだ。「…かすかな獣臭にこの血液…間違いなく本物だ…!!」ご先祖様はそう言うと男の全体図を見てみる。よく見ると右足に何かにかまれたような傷が出来ていた。それはまさしくとらばさみで造られた傷跡に見えたそうで。「分かった!俺はおめぇさんの言う事を信じるぜ!!ところで一体どんな用なんだい??」ご先祖様が男にそう言うと彼は微笑み話を始めた。「実はあっし、犬神刑部狸って言う妖怪なんでさ!たまたま昨日は餌を取るために山をブラブラしてたら、あっしとした事があんな罠にかかって外れなくなる始末…あまりの痛みに人間に化けるのも忘れてタヌキ姿になってしまいまして…そしたら旦那様が通りかかってしかも助けていただいた!!あっしは感動しました!人間はこんなにいいやつだとは知らなかったんで!ですから旦那!あっしは貴方に恩返ししたいんでさぁ!」タヌキはそう言うと何でもお願いしてくれと言ったそうで、それに対してご先祖様は「なら俺の店を手伝ってくれよ!」と言ってそのタヌキを蕎麦屋の従業員として迎え入れたらしい。それから蕎麦屋は大繁盛!というのも、その店でタヌキ(名前は豆八と呼んでいたそう)は大変可愛らしく愛嬌がある上に、仕事も早い、対応も丁寧で口々で噂になって豆八を一目見よう客が大行列!!蕎麦屋はどんどんと店を大きくして、金持ちの大名などまでやって来るようになった。それから10年後のある夏。その前の年から体調を崩していた豆八がいよいよ危篤だとご先祖さまや家族で集まって彼の横になっている居間に来た。彼はご先祖様を見るなり、無理やり体を起こし、せき込みながらご先祖さんを見つめた。「へへ、すんませんね、あっしの身体も、もう限界みたいでさぁ」「ああ、豆八!頼むよ!俺を置いていかんでくれ!!」「旦那、大丈夫。全てはあっしの力ではねぇですよ、全部旦那の力だ」そこまで言うと再びせき込む豆八の背中をご先祖様は撫でる。「旦那、最後の恩返しをさせてくだせぇ…あっしの妖怪の姿…タヌキ姿の置物を蕎麦屋の前に立てて欲しいんでさぁ…」「あぁあぁ!!分かった!いくらでも作ってやる!!」「あっしは…旦那に出会えて…幸せでござんした…」豆八はそう言うと息を引き取ったという。それからご先祖様は有り金を全て使い、信楽焼のタヌキをたくさん作ったという。「ご先祖様の真似をしてそれからいろんな店で信楽焼のタヌキを置くようになったんだってさ。まぁ可愛いしその豆八の商売繁盛の願いがかかってるって噂でも聞いたら誰だって置いてみたくなるわな」親友はそう言って自身の店でもある実家の老舗の蕎麦屋で別れた。「なるほどなぁ」俺は思わず呟いた。親友の店の前に並ぶ20体近くの信楽焼のタヌキはこう言った理由で置かれてたのか。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2023/11/13 15:28
鍋屋木おでん
ショートショートをメインに長編書いたりしてる人です。
【逢魔時の妖怪嫌い】、更新中です。よろしくお願いします。