海月の骨

海月の骨
第一章 夏の光と彼女の影 蝉の声が空気を震わせ、陽炎がアスファルトの上で揺らめく葉月の昼下がり。私は教室の窓際で、汗ばむ首筋を扇子で仰ぎながら、ぼんやりと海を眺めていた。誰も知らないような田舎のこの高校は、海岸線からほんの数メートルしか離れていない。波の音が授業の合間を縫って聞こえてくるから、つい心がそっちに持っていかれる。 私の名前は佐藤凪夜、十七歳、平凡な女子高生だ。成績は中の上、部活は美術部に入ってるけど別に絵を描いたりするのは好きじゃない。友達は人並みにはいるけど親友と呼べる人はいない。そんな私が、この夏、人生で初めて「恋」を知ることになるなんて、想像すらしていなかった。 あれは文月のまだ湿った風と共に突如現れた転校生の月食瑠璃。彼女は背が高く、色白で、長い黒髪が海風に揺れる姿は、まるで水族館のクラゲのようだった。彼女の瞳は深くて、どこか吸い込まれてしまうような不思議な感覚を覚えた。狭い世界で生きてきた私たちには十分過ぎるほど眩しく見えた。 「佐藤さんって、美術部なんだね」
くろねこ
くろねこ
主に百合小説を書きます 甘酸っぱいひと時の青春