ことわざ成敗

ことわざ成敗
石橋を叩いたら崩れ落ちた。 腹が立ったので、石の上の人間を蹴り飛ばした。三年も待って何になる。そんなのは焼け石に水だろう。ぶつくさ言いながら歩いていると、雨が降ってきた。試しに石を観察してみたが、雨垂れが石を割る気配は全くない。そんな途方も無い時間を待っていられるか。鶴は千年亀は万年と言うが、そんなにあいつらは生きないし、人間の寿命はせいぜい百が限界だろう。干天の慈雨なんて嘘っぱちだ。お陰様で俺はずぶ濡れ、余計に腹が立ってきた。急がば回れなどと言っている場合では無い、このままでは風邪をひく。さっさと近道をして帰ろう。あの石橋さえ渡れていれば、こうはならなかったのに。犬も歩けば棒に当たるとはこのことか、だけど俺は犬なんかじゃない。考えているうちに、雨も晴れてしまった。これだけ濡れて、今更晴れたってどうにもならない。替え着なしの晴れ着なし。これは晴れ着でも無いが、他に変えだって無いんだぞ。雨降って地固まるだとか馬鹿げている。地面が固まったって俺は濡れたままだ。全く、こんな日に出歩いた俺が馬鹿だった。いや、違う。どれもこれも不運のせいだ。 舌の根も乾かぬうちにまた文句を言い始めると、後ろから声をかけられた。 「そんなにずぶ濡れで、何をしているんだい?」 突然の言葉に泡を食ったが、すぐに言葉を返した。 「先人達の間違いを探していたのさ」 老婆はぱちくりと目を瞬きさせて、心底分からないという表情で言った。 「そりゃ、寝耳に水なお話だね」 全く、どいつもこいつも馬鹿だな。 「おいおい婆さん、あんたの耳は濡れちゃいないぜ?」
じゃらねっこ
じゃらねっこ
ねこじゃらしが好きなので、じゃらねっこです。