嘘をつくこと
僕が小学四年生の夏、田舎のおじいちゃんとおばあちゃんの家に遊びに行ったとき訊いたことがある。「ねえ、おじいちゃん嘘をつくのって悪いことなの?」「そうさな〜嘘をつくと閻魔様に舌を切られるからねえ」「それは迷信でしょう?」「迷信だけど、きっと悪いことなんだろうなあ」「でもね」とおじいちゃんが続けようとしていたところに「カズちゃんヒロくんが来たよ」とおばあちゃんが僕を呼びに来た。ヒロくんと言うのは近所に住んでいるヒロシのことで、幼なじみだ。「うん。おじいちゃん行ってくるね。続きまた聞かせてね」「ああ、気をつけてな」僕は帽子を被り玄関に向かった。
「ヒロシ、久しぶり」「カズヤもな、」「で、どこ行く?」「俺秘密基地見つけたんだ」「まじか!」「今はヨッシーとマサしか知らないぜ」ヨッシーは苗字の吉をとったあだ名で、マサはマサヒコのマサだ。実は小学二年生まで僕はおじいちゃんとおばあちゃんの家に預けられていた。母は父の単身赴任に付き添っていたが、当分は変わることもないだろうと言うことで、僕は都会へ引っ越したのだ。それからは、夏休みしかここに来なくなった。
僕とヒロシは秘密基地へと向かった。秘密基地は人里を少し離れた山の、大きな木の下にあった。
「なあヒロシ、この山には近づかないようにって言われてたんじゃないのか?」「ああ、クマが出るからね。でも、人里に近めだし、クマ避けの鐘もいいっぱいあるから大丈夫だよ」「そっか、ならよかった」僕達は木の根っこのところの穴の中に入った。入口は小さいが、中は結構広い。子供十人はいけそうだ。中にはヨッシーとマサがいた。ゴザを敷いてせっせと男子会?の準備をしていた。僕とヒロシに気づくとようと言うように手を振った。
「久しぶりだなカズヤ」とマサが言うとヨッシーは「都会の生活には慣れたか?」と聞いてきた。「まあまあってとこだな。今は休みだけど平日は塾行ってるから、大体疲れて帰って来ることが多いんだ」僕が言うと口々に「へー、都会は大変だな」と言った。
小さな木のテーブルの上にお菓子とコーラを並べるとヒロシがコップを掲げて「ええ、カズヤの帰省を祝って乾杯」と言った。僕達もコップを持ち乾杯と言ってコーラを飲み干した。それから僕達はトランプやウノなどのカードゲームを楽しんだ。「なあお前ら、夜それぞれ花火持ってまたここに集まらねえか?」とヒロシが言った。「いいね」とマサとヨッシーが頷いた。「でも大人にはなんて言う?」と僕が言うと少し考えて「お互いがお互いの家に遊びに行ったって言えばいいさ。」とヒロシが言った。嘘をつくのは気がひけるがみんなとももう当分会えないだろうと思いヒロシの意見に賛成した。
「じゃあまた六時にここ集合な」「うん。またな」僕は三人と別れた後家の近くの駄菓子屋で花火を買った。駄菓子屋と言ってもほとんど野菜がメインでお菓子と遊び道具が少しあるくらいだ。
家に帰ると急いでリュックの中に持っていくものを詰め、風呂に入った。それから早めの夕食を食べ、家を出るとおじいちゃんに呼び止められた。「カズヤどこ行くんか?」「ヒロシん家」「気をつけてな」「うん」おじいちゃんごめんねと心の中で謝った。そしてあの秘密基地に向かった。
他の三人は早めに来ていた「遅いぞカズヤ」とヨッシーが言った。「ごめんな」僕達は懐中電灯をつけてそれぞれが持って来た花火を確認し合った。僕は線香花火が二袋と噴き出し花火が人数分、を持って来た。最初は各自持って来た線香花火をして、後から大きい花火をやることになった。線香花火が終わったところに奇妙な音が聞こえて来た。太鼓叩くような音だ。「聞こえた?」と僕は三人に訊いた。「太鼓みたいな音?」とマサ、「そう」「あっちの方だよな?」とヒロシが言うと僕らはヒロシに続いて行った。少し経つと火の光が見えてきた。僕らは林の影に隠れて光の正体を掴んだ。それは文字通り火だった。裁判みたいに一番高い台の上にはいつか絵本で見た恐ろしい形相の閻魔様がいた。その向かいの小さな台には被告人つまり何か罪を犯した人だ。その周りには焚き火が何個も並べてあり、それを僕達より少し小さい天邪鬼が囲んでいた。
「どうする?」と僕は訊いた。ヒロシが言った「逃げるしかないだろ」逃げようとすると後ろに「逃げるな」と言って天邪鬼が大きなフォークを持って睨んでいた。僕達は閻魔様の前に引きずり出された。「君たち、この山には近づくなと大人から言われていなかったのかい?」と閻魔が奇妙な微笑みを浮かべて言った。「そうだよな、言われていたよな。ではなぜここにいるのか、答えは一つ嘘をついて来たということ。嘘をついた人はこの私に舌を切られるのは知っているな。さて、誰の舌を先に切ろうか」閻魔は大きなハサミを見つめながら言った。言い出したのはヒロシだが、ヒロシは僕のためにしてくれた。ヒロシがやらせたと言えるわけがない。僕は決心して言った。「嘘をつかせたのはこの僕です。他の人は関係ありません。切るなら僕の舌を切ってください。」三人は驚いて僕の顔を見た「嘘をつかせた方も悪いがそれをそのままやる方も悪い」と閻魔はにこりともせずに言った。「でも、僕は彼らの弱みを餌に言ったんだ。それは百%僕が悪い」「ほう、そうかじゃあ」と閻魔が言おうとしたときヒロシが遮った。「カズヤは悪くないです。俺が嘘をつかせたんです。だから俺の舌を」「ヒロシ、何を言うんだ。君は僕のために」「ヒロシもカズヤも俺もマサも悪い」「そうだよ。二人で背負う必要はないよ。みんなでしたことなんだから。だから、閻魔様、俺ら四人の舌を切ってください。」「カズヤはこの私に嘘をついた。だが、三人に免じて同様に舌だけを切ってやろう」そう言った後ハサミのチョキンという音が聞こえ僕達は気を失った。
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カテゴリー: お題
投稿日時: 2023/4/5 0:16
最終編集日時: 2023/4/5 1:02
星 と 海
小説を読むことが大好き。初めて読んだ本は、南総里見八犬伝