旅人

旅人
 やあねぇ、ああはなりたくないわねぇ。  隣を歩くお母様は、ふとそうこぼした。何のことかと思い、お母様の視線を追ってみる。  すると目線の先には、見ただけで浮浪者だとわかる男がいた。駅の中だと言うのに、柱に背をつけながら床に座っている。 肌は浅黒く、近くを通るとなんだか嫌な匂いがした。しばらく風呂にも入っていないためだろう。顔を伏せていたため、どんな顔、表情なのかはわからなかった。  男の前を通り過ぎてから、お母様は僕に言った。  いいですか、あんな惨めにならないためにも、しっかりとお勉強をするのですよ。
尾鰭(おひれ)