第六十九話

沙恵の声はか細く、消えてしまいそうだった。しかし、伝えたい。裏切った自分に対しても、優しく思いやりのある心で接してくれたこの人たちに。少しでも、少しでも。 「故郷には捨てられて、遊郭で過ごしてきて、人間なんてただの欲望の塊、醜い存在としか思えなくて…。でも貴方達は違う、やっと分かったわ、仲間というものが、人間の絆の美しさが。」 沙恵は三ツ目に似ているといじめられていたのではなく、三ツ目そのものからいじめられていたようだ。恨めしく思うのも無理は無い。甚八に肩を借りているかえでは、下唇を少し噛む。沙恵は、段々と自分の目頭が熱くなるのを感じる。だが、そんなことよりも、この人たちに伝えたいことがあるのだ。 「…お願いします、これからも私に美しい世界を見せてくれますか?」 いつもよりも大粒の涙が零れる。これが、これこそが私の本心なのだと、沙恵は改めて実感することができた。佐助は後ろの幸村を見る。と、幸村も佐助を見つめていた。そして、佐助に優しい笑顔を向ける。それに答えるように佐助は頷き、一歩前に出た。
澄永 匂(すみながにおい)
澄永 匂(すみながにおい)
連載中の作品は、金、土曜日辺りに更新予定です。 大学生&素人なので文章がぎこちないですが温かく見守ってください。 中学生の頃に作っていた話(元漫画予定だったもの)を書けたらいいなと思い、始めました。