第十幕:伝承
午後になると、図書館の窓の外には細い雨が混じり始め、薄暗い灰色の光が書架の合間を漂った。
彼女は相変わらず二階の奥に陣取り、何冊もの古びた本を積み上げて頁をめくっていた。
彼はその隣で、何食わぬ顔をして椅子にもたれかかり、時折、眠たげに指先で書架を叩いていたが、その実、彼女の思考をかすかに舐めながら様子をうかがっていた。
「……あったわ。記憶喰いの伝承」
不意に、彼女が小さな声を上げた。
指先で古びた頁の一角をなぞり、わずかに身を乗り出した。
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カテゴリー: ホラー
投稿日時: 2025/7/19 3:59
最終編集日時: 2025/7/21 0:13
さきち
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