第十幕:伝承

午後になると、図書館の窓の外には細い雨が混じり始め、薄暗い灰色の光が書架の合間を漂った。 彼女は相変わらず二階の奥に陣取り、何冊もの古びた本を積み上げて頁をめくっていた。 彼はその隣で、何食わぬ顔をして椅子にもたれかかり、時折、眠たげに指先で書架を叩いていたが、その実、彼女の思考をかすかに舐めながら様子をうかがっていた。 「……あったわ。記憶喰いの伝承」 不意に、彼女が小さな声を上げた。 指先で古びた頁の一角をなぞり、わずかに身を乗り出した。
さきち
さきち
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