#14
「そろそろここを動かないとな」
アルトがサライズ村に留まり3日ほどすでに経過していた。主な目的は狩猟による食料の備蓄と聖杯−ゴスペルの実験のためだった。
ゴスペルは村でのドラグニルとの戦闘以降力を発揮することはなかったが、鈍い紅色を放つ魔石はガードの中央でいまだにぼんやりとした光を放っている。
この5年である程度の戦闘経験を獣を相手に積んできたおかげで立ち回りと剣筋は成長したが、あの時のような、考えるまでもなく身体が動くような感覚はなかった。例の鍛冶屋でさえもこれには首を捻っていたのだ。これは伝承にはないことなのだろう。
アルトが目指すのはスパルジア帝国の滅亡。
しかし力がなければそれはなし得ない。であるから、他国へと渡り剣技と知識を身につけるつもりだった。当面の目的は、隣国『ユーグラシア共和国』を目指すつもりだ。帝国の帝王が君臨する政治とは違い、共和国の名の通り国民による政治が行われているという。アルトは足を踏み入れたことがないが故にその全貌を深く知ることはできなかったが、それはこれから学べばいいことである。
考えをまとめるとアルトは梁の上から飛び降り、森の方へと足を向けた。
森の暗闇。その静寂にはしかし、確かに命の気配を感じることができる。たまに風にざわめく木々の音に紛れ、極小音の足音で近づいてくるのはすらっとした四本の足と大きく広がる角を持った茶色の体毛の獣だった。名をガウルという。
ガウルは軽やかに跳ね回ることもできるしなやかな筋肉を持ち、その肉は備蓄食料にしても味の落ちない優れものだ。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2025/8/29 16:13
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
Zeruel
趣味の範囲で書きます。
また、才能があるわけではないので、馬鹿にされると言い返せなくて泣きます。
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