【第2回NSS】ひぐらしの声と

【第2回NSS】ひぐらしの声と
島にはただ一つの学校、そしてずっと家族同然に過ごしてきた幼馴染たち。 その存在が、私の心をいつも柔らかく満たしていた。放課後の教室、窓からは潮風とともにひぐらしの声が遠くから忍び寄る。それは、夏の終わりと、私たちの幼い日々の終幕を静かに告げる音だった。 高校進学には島を出なければならない。誰もが知っていたことだけど、その真実が近づくにつれ、ひぐらしの静かなその声、響きは胸の奥をぎゅっと掴む。幼なじみの笑顔、交わした秘密の約束、夕焼けに染まる砂浜――ひとつひとつが精一杯輝いて、だけど儚く散る宝石のように感じられた。 ある夕暮れ、そっと島に残る幼馴染へ告げた。 「離れても…またこの声を聴きに帰るね」 その言葉に、「うん」とだけ頷いた彼の瞳には、震える光があり、“カナカナ…”とひぐらしの声が、まるで再会の約束のように深く寄り添っていた。 フェリーの汽笛とひぐらしの声。 島を離れるその日、私は潮風に背を押されるように一歩踏み出す。けれど振り返ると、その声がまだ鼓膜に残り、心に確かな帰る場所の温もりを灯してくれている——そう信じて、歩みを進めた。
叶夢 衣緒。/海月様の猫
叶夢 衣緒。/海月様の猫
自己満です。 少し投稿頻度落ちてます。 ※フォロバ目的のフォローはしません。フォロバも期待できないと思います。 2023年 2月27日start 3月3日初投稿