明るいものが読みたいと言われても

 明るいものが読みたいと言われても困る。また担当編集に言われてしまった。 「世間はカラッとしてて読みやすいものを求めてるスよ。純文学とかって今売れないじゃないですかぁ。マミさんも、もっと明るい経験増やしたほうがいいと思うんすよね~。」 「はあ。」 「彼氏とか作って遊んじゃいましょ!旅行代は経費になりますよ!」 「あんまり彼氏とか要らないっていうか…」  ここまできてようやく察したのか、担当編集は眉間をピクリと震わせて 「まーまー、今日は飲みましょ!期待してますよ!先生!」  ニコニコしながら持っていたグラスを一気に飲み干し、ハイボールを二つ頼んだ。彼は一橋大学を卒業して十三年間ずっと編集の仕事をしているという。こんなことがしたくてこの世界に入ったのだろうかと思う。それは私もそうなんだけど。  饒舌に話し続ける彼に適当に相槌を打ちながら、飲んでも飲んでも出てくる酒にのまれて穏やかに記憶が飛んでいった。
いわごん
いわごん