気がついたら平安貴族に転生していました⁈

気がついたら平安貴族に転生していました⁈
 気がつくと私は知らない場所にいた。けれど頭では「ここは平安時代」とわかっている。授業や資料集で見たことのある室内の様子、目の前にいる烏帽子を被った男の人は紛れもなく平安時代だ。  そして、基礎情報も頭に入っている。この目の前にいる男の人は「彼」の兄。「彼」とは政略結婚の婚約者とは言え、お互いに惹かれあい仲が良かったのにも関わらず「彼」は先立ってしまった。いくらお互いに想い合っていたと言っても、政略結婚であるので代わりに「彼」の兄が宛てがわれたというわけだ。  何かで知っている……。そうだ、和泉式部日記で読んだ状況に似通っている。契りを交わしていた恋人が亡くなり、その弟と深い関係になった気がする。和泉式部は和泉式部だけど、名前ではないので私が誰なのかは確かめる術もないが。  でも「彼」は逝ってしまった。ここにいる人は「彼」ではない。それでも私は何かを筆で書いている「彼」の兄に近づく。 「何を書いていらっしゃるのですか?」 「ああ、これはな、宮廷の……」  にこやかに言葉を返してくれるし良い人だけれど、この人はあくまで「彼」の兄であって「彼」ではない。「彼」はもういない。 ……そんなの、
すみれ
すみれ
はじめまして、すみれです。日常に根づいた1000字程度の短編小説を書きます。たまに短歌や詩も。