息を止めても

 将来の夢はなんですか。ないですか。それはなんとなんと。ではやりたいことは。それもないと。では趣味、マイブームで構いません。それも、ですか。それじゃあ何して生きてるんですかい。  昼下がりに目を覚まし、カーテンの隙間から差し込む光が揺れているのを冷めた目でぼんやりと眺めていた。夢の中で、何かを問われた気がした。それが何かと聞かれてもよく分からないのだが、従来夢とはそんなものだろう。  テレビをつければ、司会者の明るい声が部屋に響く。声が響けばこの部屋は狭いが、テレビを消すとたちまちこの部屋は広くなる。暗くなれば尚更のこと。だから、私はよくテレビをつける。  でもときどきテレビを消したくなる。手が動き、テレビが消える。怠惰な朝の寝起きの感覚によく似た意識の薄さで行動している。  その日のテレビではダムの特集をしていた。ダムへ観光に訪れる人間の顔がいくつも映し出される。顔に取ってつけたような髪型をした男性や顔の大半をマスクが占める女性、親に連れられ不機嫌な顔をする子供。そのどれもが光ってみえた。  ドローン映像で捉えたダムのその水をはっきりと見た。その水の中を泳いでみたいと、思う。どこまでも深く潜って、奥底まで行ってみたかった。光る顔した人間の届かぬ奥底で、見上げた水面はどれほど心地よい夢を見れるだろうか。  夢を見た。皆が消えていく夢を見た。私を問い詰める声も薄まる。その声の鳴る、裂けた唇に浮かぶ血がどんどんと黒くなっていく。とうとう真っ黒になった血はそのまま広がって、私の周囲も黒く染めていく。光も届かず、とうとう何も見えなくなった。  目が覚め、カーテンの隙間から光が差し込む。揺れながら私の顔を照らす。顔の左側が燃えた感覚を覚える。鏡のない部屋の中で、漠然とした熱を感じていた。広い部屋に憤りを感じ、テレビをつける。黒い画面に反射していた自分の顔が消える。司会者は今日も笑顔で手を叩いている。  マスクと黒眼鏡をかけ、屋外へ出る。日差しを遮る帽子を被り、猫背に歩く。誰も私を分からぬ格好で、歩く。左頬を触り、マスクを横に引く。一度も空を見上げないまま、コンビニに向かう。  道脇の用水路を見て、またダムを思う。ダムに飛び込んでみたら、と思う。用水路に一歩ずつ近づく。近づいて、水面が私の体を反射する。太陽と私を反射した水面は、私の影以外全てが煌めいていた。
K
色々書いています。