好きな子には笑っててほしい
雲の上のベンチに腰掛けた少女が足元の雲を蹴り上げる。ちぎれた雲が少女の裸足の爪先にまとわりつく。それが足元の厚い雲に戻っていくのを恨めしげに睨みつけている。そしてまた、同じように雲を蹴り上げる。
「あーあ、つまんない。曇りの日って、つまんない!」
ばふん、と両足を下ろすと、雲が少し舞い上がり、また足元の雲に戻っていく。
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雲の上の「ここ」では明るい月が常に頭上に浮かぶ。時折、流星雨が降ることもあるけれど、水や氷が落ちてくることはない。ただし足元の雲が厚くなったり、薄くなったりする。少女は雲の隙間から地上を眺めるのが好きだが、こう雲が厚いときは地上が見えないので唇を突き出しながらぷりぷり怒って、雲を爪先で蹴り上げている。この日も何千回目かの「つまんない」を呟きながら爪先で雲を弄んでいた。すると、ひゅ、と音がしたかと思うと、ぽこん、と少女の頭に何か当たった。
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カテゴリー: ファンタジー
投稿日時: 2021/10/21 14:11
.sei(セイ)
✍🏻星の隙間、ベッドの隅で言葉を紡ぐ|Twitterで主に創作してます。