風の届く場所
周囲には大木と呼べる木々は一つもなく、大小構わずに考えても、一本の木さえなかった。ただ一つの大木だけが聳え立っていた。
大木の周りには季節の花が代わる代わるに咲き乱れた。ちょうどその頃大木の周りには菜の花が溢れんばかりに咲いていた。
菜の花が多く咲いているため黄色のカーペットが敷かれているようだった。その反面、黄色の中に真夏のような深緑の大木があることがとても不可思議に思えた。
一際存在感を放つ大木の近くに一つの村があった。その村は争いに追われ、逃げ込んできた人々の集落であった。
村人たちが逃げてきた時にはすでに大木が存在し、その大木を見た人々は希望の象徴として讃えた。村人たちは大木へ祈りを捧げるようになった。初めは手を合わせるだけだった祈りも、歌い、踊り、次第に祭へと変わっていった。
時がたち、祭は村人たちの年中行事として定着していった。祭は決まって菜の花の咲く時期に行われた。
「ママ、髪梳いてよ」
娘は祭に備えておめかしをしていた。
「はいはい、ちょっと待っててね。もうお姉ちゃんになるんだから自分で梳いてみたらどう」
「やだ、ママにやってもらうんだもん」
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カテゴリー: その他
投稿日時: 2025/5/22 7:52
注意: この小説には性的または暴力的な表現が含まれています
K
色々書いています。