紅い紅い星空を見上げる

 神々が作りし霊酒、怒る神の涙、天の盃から零された弔い酒、地球に落とされた神々しく巨大な一滴を、人々は畏敬の念に駆られてそう言い表した。  やがて呼び名が定まる。  あれは、アムリタだと。  時を同じくして、人々の間に噂が広まった。世界中に飛び散ったアムリタの雫を飲めば、不死の存在になれる。或いは奇蹟をその身に宿すことが出来ると。  アムリタを求めて旅を続ける青年ダルタンは、そのどちらも望んではいなかった。 「ぐおおお!」  廃工場の屋根裏で呻き声が上がった。  一人の男が、ダルタンの手刀で脇腹を貫かれている。 「ごめんなさい。先に撃たれたら、こうするしかないんだ」  ダルタンは謝辞を述べたあと、脇腹に突き刺した右腕を引き抜き、自らの親指で腹部に切り傷を加えた。罪の重さを刻んだ傷だ。
アバディーン・アンガス@創作アカ
ローファンタジーや一風変わった雰囲気の作品が大好物。 主にダークファンタジーとかサイバーパンクとか、好きな要素をごった煮した作品を鋭意執筆中です。 「好きじゃないけど面白い」と言われる作品を目指しています。 合間に書いた短編を気ままに投稿していく予定です。