揺らぐ灯火

揺らぐ灯火
 身体に熱い風が吹きかかる。歯車の音を物惜しげに耳に刻み、それでも足早に駆ける。後悔も葛藤も躊躇も、全て昨日の内に済ませた。今私にあるのは意志と勇気だけ、それらに従い動くだけだ。 「そこの女、止まりなさい。」 あぁ、やっぱりお前は私に反対するのか。右手に掴んだシャーレを閉じたまま、その声に振り返る。 「もうお前は国際的なテロリストだ、今すぐそのシャーレを渡し、投降しろ。」 「やだね、私は止まらないよ。例え君の言葉でも。」 自分の薬指から指輪を取り出し、すでに夫では無くなった彼に投げつける。 「悪いね、ゆう君。もう君の寝顔も見れないと思うと胸が少し痛むよ。」 前を向いて、一歩ずつ歩く。だから後ろで覚悟を決めた顔の彼が居ることも、そしてその拳銃を構える腕が震えてる事も私には知り得ないのだ。 「今からこの菌を換気扇にぶち込み、世界中に送る。鉄を腐食させ、精密機械に潜り込み、この延命処置を続ける地球を救うんだ。」 手だけで無く言葉も震えて止まらないのか、揺らいだ声で精一杯私に話す。
しらたき
しらたき
しらたきです。普段は鍋の具としてぐつぐつ煮られています。ほどほどによろしくお願いします。