片方のピアスは永遠に
――あ、やめた。
そう思ってしまったらもう無理だった。今日の日に、と決めたサテン生地の紺色のワンピースを文字通り脱ぎ捨てたようとした。背中のファスナーを下ろすのさえも億劫になり、無理やり裾を捲り上げる。もちろん首元でつっかえたのでバタバタと暴れ回る。ジキジキジキ……と、ファスナーか、縫い目が裂ける音が聞こえながらもなりふり構わず手足をバタつかせた。それでもなかなか脱げも破れもしないので、さすがお高いだけあるわね、と感心しながら、入念に施した化粧も汗で台無しにしつつ三万円の布と格闘する。スベスベとした生地にファンデーションや口紅が付いていく。
こうなったらとことん汚れてしまえ。破れてしまえ。ブラとショーツにストッキング丸出しで首から逆さにワンピースがぶら下がる。自分が見たら絶対噴き出す格好だわ。想像しただけでもウケる。こんな格好だれにも見せられないなぁと半分冷静になりつつもワンピースを脱ぐ、もしくは破ることだけに意識を向けた。それでも脱げなかったし、ただ疲れただけだった。
ひぃふぅと息が切れてきたので、へたりとその場に座り込む。はぁーと大きく息を吐いて背中に手を伸ばした。敗北感を感じながら、しぶしぶファスナーをゆっくりと下ろす。膝の上で、へにゃりとしたワンピースに目を落とす。
疲れた。何をしてるんだろう私は。もうそろそろ出ないと予定に間に合わないだろう。脱ぎ捨てたワンピースによれたメイク。行くとしたらまた直さなければいけない。けれど、時間を確認するためにスマホを探す気力もない。もともと確認もする気がないのだ。
きっと亮平さんは待ち合わせ場所に到着してるんだろうな。いつも待ち合わせの時間に遅れた事がないから。デートの時もいつも待たせてしまっていた。たまには驚かせてやろうと四十分前に着いた時にはすでに居て、こっちが驚いてしまったこともあったな……。香りのキツいワックスで整えた髪型に、隙のないこなれた服、顔が映るんじゃないかってくらい磨き上げた革靴。隙のない服装。崩れない表情。いつも完璧な人。あぁ、想像しただけでも頭痛がする。なんでこんな人が私なんかにプロポーズしたんだろう。田舎出の冴えない小娘なんかに。
友人同士の繋がりから知らぬうちに親しくなり、なんだかあれよあれよと結婚する話にまでなってしまった。こんな説明でそんな馬鹿な、と聞いた人は思うかもしれない。でも、本当にいつの間にかそうなっていたのだ。自分でもお付き合いというものもあまり経験がなく、恋愛とはこんなものなのかと思うまま付き合って数年が経った。
そして、亮平さんのことは誰しもが口を揃えていう"いい人"だ。
じゃあ何故私は今こんなことになっている? 両家の顔合わせを迎えた日の朝に。
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カテゴリー: お題
投稿日時: 2024/11/28 14:39
はるきち
いつも読ませてくださり、ありがとうございますm(_ _)m
読むのが好き。書くのは下手の物好き。
よろしくお願いいたします。